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2018年3月29日更新
本日、晴れて修士の学位を授与された215名の皆さま、そして博士の学位を授与された40名の皆さま、おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。
また、本日に至るまでの皆さまを励まし、支えてこられたご家族やご関係の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。
ご来賓の皆さまには、お忙しくていらっしゃる中、本日の学位記授与式にご臨席賜り、共にお祝い頂けますこと、まことに有難うございます。これからも、修了生たちの将来をお見守り頂けますと幸いでございます。
今朝、卒業や修了を控えた皆様が、新しくなった正門の門扉の前で写真を撮っていらっしゃる光景に出会いました。あの門扉は、第2次世界大戦の最中に軍によって供出させられて、その後ずっと仮の門扉が取り付けられていたものですが、昨年、卒業生や教職員の方々の念願が叶って、昔の形に復元されたものです。
丁度、以前の門扉とお別れした頃の卒業生の方から、「新しく門扉が復元されて、涙が出るほど嬉しかった」とのお言葉を頂き、私たちも、復元できてよかったと、とても嬉しく思いました。
皆さまは、新たな門扉が復元されてから、記念すべき最初の卒業?修了生です。
この度 修士および博士学位を授与されました255名の方々のうち、34名が、中華人民共和国、大韓民国、台湾、タイ王国、ベトナム社会主義共和国、モンゴル国、ロシア連邦、ウクライナ、ネパール連邦民主共和国 から、日本に留学し、本学において研究生活を送って来られた方々です。皆様がご参集下さって居りますこの徽音堂に、日本の国旗と共に、留学生の方々のお国の国旗も掲げてありますが、毎年、国境を越えて、お茶の水女子大学大学院に留学生をお迎えできますこと、そして、本学における特色ある学びと研究生活を経験した皆さまを社会に送り出すことができますことは、私たち教職員にとりまして、とても大きな喜びです。
留学生の皆さまにとって、環境も習慣も異なる日本での生活は、きっと楽なものではなかっただろうと思います。本日、無事に学位記授与式を迎えることができましたこと、本当におめでとうございます。
お茶の水女子大学は1875年にわが国初の女性のための高等教育機関として設立されて以来、多彩な学術研究や教育の実績を積み重ねながら、特徴ある学問を創成し、平和で公正な社会の発展に貢献して参りました。
そして、女性が学術研究に従事することさえ困難な時代から、本学の卒業生は、国の内外で研究者、教育者などとして、活躍して参りました。わが国の女性科学者として初の女性理学博士となった生物学者の保井コノさん、女性で初の帝国大学生となり、その後理学博士となった化学者の黒田チカさん、第二次世界大戦前後の極めて困難な時期に、フランスのジョリオ=キュリー夫妻の許で国際的な原子物理学者として活躍し、日仏の研究者の架け橋ともなられた湯浅年子さん、当時、女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさん、豊富な海外留学の経験を経てシャム国(現在のタイ王国です)の女子教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目?学長を務めた安井てつさん、アメリカ留学の経験を活かした社会的活動を通じて女性の権利向上を広く訴えると共に、日中教育文化交流に尽力し、さらに桜美林学園の創設発展に貢献した小泉郁子さんなどを先駆けとして、優れた方々が、研究や教育の分野で活躍して来られました。なお、これらの方々は、本学で教鞭を執られ、後進を育てていらっしゃいます。
お茶の水女子大学では、今お話した5名の大先輩たちのお名前を冠した「お茶の水女子大学賞」を創設し、それぞれの分野で頑張っている本学出身の研究者の方々を顕彰しています。本年度は、保井コノ賞は東京農工大学特任准教授の柳澤美穂さん、黒田チカ賞は理化学研究所研究員の秋山央子さんとテキサス大学博士研究員の内川瑛美子さん、辻村みちよ賞は授乳服の開発で著名なモーハウス代表取締役の光畑由佳さん、小泉郁子賞は日本大学教授の佐藤至子(ゆきこ)さんが受賞されました。湯浅年子賞は、今年度は残念ながら候補者がいらっしゃいませんでした。受賞された方々は、いずれも意欲溢れる素敵な研究者であり、起業家です。 本日学位を授与された皆さまにも、近い将来、これらの賞を受賞して頂きたいと願っています。
現在も、文系?理系を通じて、学術?研究のみならず、実業界や行政、メディアなど多様な領域で卒業生達が活躍しています。様々な場で、社会で活躍する女性たちにお会いするのですが、その方々の多くが、本学の卒業生、修了生であることに驚かされることも少なくありません。ロールモデルとしての先輩たちの活躍は、後に続く皆さまにとって、力強い後押しとなることでしょう。
なお、本学の同窓会である「桜蔭会」では、国の内外でネットワークを作り、素晴らしい先輩たちが、卒業生と修了生たちに向けた様々な支援をして下さっています。
本日皆さまが手にされた学位は、広く豊かな教養と、深く高度な専門的知識の修得の証であると同時に、将来に向けて、人類社会の安定と発展に貢献していくための基盤を作って来たことの証でもあります。さらには、これまで積み重ねた知の資産を、これから皆様が飛び立とうとしている社会のために、活用することの責任を負う立場に立ったということも意味しています。
ところで、今、皆さまが飛び立とうとしている社会の環境は大きく変動しています。世界の至る処で大規模な自然災害が起こり、また、安全と平和、貧困、差別、地球環境の劣化、エネルギー?食料など資源の枯渇、民族紛争?移民問題、高齢化、グローバルな感染症の広がりなど、地球規模のスケールで展開する深刻な課題が山積しています。
わが国でも、多くの人々に耐え難い悲しみをもたらした東日本大震災から、今月11日で7年が過ぎましたが、まだまだ復興もままならず、多くの被災者の方々が辛い生活を送っていらっしゃいます。そんな中で、昨年4月には熊本大地震が起こって、200名以上の死者と2,700名以上の重軽傷者を出し、また42,000件以上の住宅が全半壊したと報告されています。
これらの災害は、それまでの穏やかな日常生活を一変させ、愛する人々や大切な品々、そして思い出の詰まった場所との不条理な別離を余儀なくさせました。それと同時に、様々な社会システムを破壊して、機能不全に陥らせました。そして、科学や技術への信頼も、また日本のリーダーであるべき人々への信頼も失墜させる結果となりました。現代社会は、世界的に大きな試練の時期に入っていると言えましょう。
でも、こういった困難な状況から逃げ出したり、知らぬ振りをしたりすることは、許されることではありません。このような困難な時代だからこそ、本学で研鑽を積み、知の資産を蓄えた皆さまには、「社会からの要請に応えて、未来を切り拓く」強い意志を持ち続けて頂きたいと思います。お茶の水